インド卓球は、歴史ある競技文化とともに近年大きな飛躍を遂げてきました。
2025年6月現在、ITTFの世界チームランキングで男子は12位、女子は11位と世界上位の実力を誇っているだけではなく、2024年世界卓球(団体)では中国から2点取るなど、世界トップ選手を破る躍進も見せています。
本記事では、その国際的な躍進、プロリーグの展開、育成制度、インフラ整備、普及状況、そして社会貢献まで、幅広く最新動向をまとめます。
1. インド卓球の国際的な躍進
1990年代まで
1926年の第1回世界選手権で、インドは男子団体および男子シングルスで銅メダルを獲得し、鮮烈なスタートを切りました(Wikipedia)。
その後1970年代には女子のインドゥ・プリーが8度の国内タイトルを獲得し、1978年にはアジア選手権で世界王者(パク・ユンソ(北朝鮮))を破る快挙を達成。
男子では、1980年代はカムレシュ・メヘタがインド国内選手権で8度優勝しています。
1990年代はチェタン・バボールがインド国内選手権で4度の優勝、コモンウェルスゲームズでも2度の優勝を収めています。
【男子】アチャンタ・シャラト・カマル
2000年代以降、インドの卓球選手は国際舞台でさらなる飛躍を遂げました。
アチャンタ・シャラト・カマルが、国内選手権で10回もの優勝を成し遂げています。さらにオリンピックには5回出場し、2006年にはコモンウェルスゲームズでインド人として初の金メダルを獲得。その後も複数回の大会でメダルを獲得しています。コモンウェルスゲームズでの複数の金メダル獲得など数々の国際タイトルを手にしました。
大会成績だけではなく、市民栄誉のパドマシュリー勲章や最優秀選手賞にあたるカーイル・ラトナ賞を受賞し、功績が称えられています。また、2024年にはITTF Foundationのアンバサダーに選任されました。
【男子】サティアン・グナナセカラン
グナナセカランは2019年にインド男子として初の世界ランク25位以内入りしました(UTT公式)。2018年アジア大会では男子団体でグナナセカランは上田仁に3-0、松平健太に3-1で勝利し、インドが初のアジア大会銅メダルを獲得しました。この歴史的な勝利後、モディ首相に呼ばれ、支援も継続的なものになったと語っています(Rallys)。
日本のTリーグにも岡山リベッツに所属して参戦したこともあります(戦績)。
参考情報
https://www.butterfly.co.jp/players/detail/gnanasekaran-sathiyan.html
https://rallys.online/forplayers/player/sathiyan-gnanasekaran
【女子】マニカ・バトラ
女子ではマニカ・バトラが2018年コモンウェルスゲームズでシングルス金を獲得し、インド女子選手初の偉業となりました。パリ五輪ではベスト16まで勝ち上がり、これもインド女性選手で初の快挙でした。また、サウジスマッシュ2024では中国の王曼昱を破る活躍も見せました。
【女子】世界選手権2024で中国から2点取りの衝撃
世界卓球2024団体戦では、A.ムケルジが孫穎莎を、アクラが王芸迪をそれぞれ破り、中国から2点を奪いました。卓球王国ではインドを「粒高とアンチの王国」と述べているように、独自の進化を遂げたインド卓球の大躍進でした。
プロリーグ「Ultimate Table Tennis」の挑戦
2017年に発足したUTTは、インド初のプロ卓球リーグであり、インド卓球連盟公認のもと11Sportsが運営しています。現在は8チームが都市を拠点にフランチャイズ制で構成されています。
リーグでは男女シングルスおよび混合ダブルスを含む9試合で対戦。インド人選手と外国人選手の対戦形式を採用し、トップ選手との実戦経験が積める環境が整っています。
創設者ヴィタ・ダニ氏は、五輪メダル獲得を目指し、育成事業や大会支援にも力を注いでいます。
育成とアカデミーの充実
インド卓球連盟が全国規模の大会を通じた育成ピラミッドを構築しています。毎年開催される全インド卓球選手権(ナショナル選手権)にはシニア・ジュニア・カデットの3カテゴリーで延べ1,200人以上の選手が出場し、さらに年間を通じて国内各地で開催されるTTFIランキング・トーナメント(5つの地域ゾーンで開催)には合計6,000人を超える選手が参加しています。ultimatetabletennis.in
民間ではPSPB(石油公社スポーツ振興委員会)のアカデミーが長年にわたり選手を育成。PSPB卓球アカデミーは1994年にスポーツ庁(SAI)およびTTFIとの協力で設立され、8歳前後から有望な子供を受け入れてエリート育成を行ってきました(PSPB)。
また、Indian Table Tennis Academyなど、各都市には元トップ選手によるアカデミーや最新設備を備えた卓球クラブが多数存在します。
UTTも「Dream UTT Junior」というジュニア向けリーグを開始すると発表しています(UTT公式)。
卓球インフラと大会開催地の拡大
主要都市(デリー、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールなど)に国際基準の施設が整い、UTTや全国大会、WTT大会の開催地として活用されています。2023年にゴア、2024年、2025年にチェンナイでWTTスターコンテンダー大会を開催(UTT公式)。
インドにおける卓球インフラは、伝統的に都市部を中心に整備されてきました。古くから西ベンガル州、タミル・ナードゥ州、グジャラート州、マハラシュトラ州といった人口密集州で盛んに楽しまれてきましたen.wikipedia.org。
都市圏では卓球アカデミーが普及している一方、競技施設や指導者が不足している地方ではSAI(スポーツ庁)が高地合宿所を設置し、施設格差の是正に努めています(ShimlaOnline)。
総じてインドの卓球インフラは改善の途上にありますが、主要都市には国際水準の会場とトレーニング施設が揃い始めており、地方にもその裾野が広がりつつある状況です。
社会貢献とインクルーシブな卓球
東京パラリンピックでは車いす卓球クラス4でバヴィナ・パテルが銀メダルを獲得し、障がい者スポーツの認知向上にも大きく貢献しました。
インド女子選手では2人目のパラ・メダリスト、初のパラ卓球メダリストとなったパテルは、幼いころにポリオに罹患し車いす生活になりますが、12歳の時に地元で障がいを持つ子どもたちが卓球するに様子を見ても卓球に興味を持ちます。大会で好成績を挙げるようになると、両親は経営していた食器店を畳たたみ、より良い競技環境を求めて州の中心都市に移住したそうです(パテル選手)。
ITTF財団が支援する「Dream Building」では、卓球を通してスラムや貧困地域の子どもたちの教育・衛生意識・ジェンダー平等を促進し、障壁を取り払い、遊びを通じた学びの場を提供しています。
UTTはCSR活動にも注力しており、性別や障害の有無に関係なく誰もが卓球に参加できる環境づくりを推進。賞金制度やMVP選出においても男女平等を実現しています(UTT公式)。
まとめ
いかがでしたか。インド卓球が確実に成長している様子を感じていただけたでしょうか。これからも独自の進化を遂げるインド卓球界に注目していきましょう。
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